名前が数字に変わった日

具現化されてゆく地獄と戒め

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

名前が数字に変わった日16

自宅へ裁判の日時を知らせる封筒が届く 約一ヶ月後がその日だ 自分は余罪も含め 全ての罪を洗いざらい自白していたので 恐らくはその裁判で結審となる その裁判後、二週間ほどで判決日を迎え 自らの罪に判決が言い渡される その日からひたすらネットで 自ら…

名前が数字に変わった日15

家も 外も 何も縛られずに動き回れる現状が 不思議で落ち着かなかった 段々と空が明るくなってゆくまでの間 何度も寝室を行き来して、家族の寝顔を見ていた 夢じゃないんだって 信じ切れていない感覚にあてられながら 少しずつこれから先の事を考え始める 仕…

名前が数字に変わった日14

家に着いて 一ヶ月ぶりに子供たちと会えた 当たり前の事が どれほど幸せな事か この時ほど痛感した瞬間はない 元々、立派な親では無かった 父親としての意識とは別に世間体でいえば きっと自分はダメな親だったと思う それでも久しぶりに触れた子供たちの頭…

名前が数字に変わった日13

私物の確認が終わり そのまま取り調べ室で迎えを待つ その間、刑事と他愛のない話をしたり 今後はどうしていくのか、なんて話をしたり もちろん頭の中は早く家族に会いたい一色だったが 何だか不思議と刑事との別れもちょっとだけ切なかった 一ヶ月間、毎日…

名前が数字に変わった日12

留置所に入った際の持ち物を確認するから 房から出てこちらに来て下さい。 そう告げられて 看守と共に長い廊下を歩いてゆく 入った事のない部屋に通されると 一ヶ月前に預けていた私物が並んでいた 大体、三十分ほど掛けて確認をして 一度独房に戻された そ…

名前が数字に変わった日11

次の日、いつも通り六時半に起床する 布団を片付け、歯を磨く 一連のルーティンが終わり 独房に戻り、格子の隙間から窓ガラス越しの空の色を眺めた。 取り敢えず官本も入れてはいたが 一ページも開かないまま床に置いていた 一時間が過ぎ 二時間が過ぎる い…

名前が数字に変わった日10

本来、保釈の進捗状況は 伝える義務も必要も警察には無い それは本来は弁護士の役目になる それでも、こうして教えてくれたのは 何十回としてきた取り調べの中で子供や家族への愛を話し続けてきた故の情みたいなものだったのかもしれない 何の偶然だったのか…

名前が数字に変わった日9

狭い取り調べ室で姿勢を正し その内線電話が終わるのを待った。 受話器を置いて 『早くて今日 遅くても明日には保釈されそうだよ。』 小さく笑いながら言われた。 最初、まるで話の内容が入って来なかった 少し時間差で意味が追い付いてくる ずっと待ってた…

名前が数字に変わった日8

最大拘留期間が終わった それと同時に起訴を知らせる通達が届いた。 ここからは二通りの道に分かれる 約一ヶ月後の刑事裁判日まで 留置所か拘置所で待つか 或いは保釈申請してもらい 一度、外へ戻されるか 自分の場合は後者だった。 もちろんその手続きは 金…

名前が数字に変わった日7

一ヶ月の留置所生活で 心の支えになっていたのが"面会"だった。 数日に一度 それもたった十五分という短い時間の中で ガラス越しに居る身内に これでもかって程の言葉を投げ掛けた。 何度泣いただろう それ以上に何度泣かせただろう あんなに当たり前だった…

名前が数字に変わった日6

十六日目を境に みるみると体の肉が削がれてゆく。 水ばかり摂ってるせいで 日に日に排出物は液状に変わってゆき 二十日を迎えたあたりには 既に無色に近い水になっていた。 日課であった布団の出し入れが辛くなり 何となく続けていた筋トレは体が言うことを…

名前が数字に変わった日5

決して自分は悲劇のヒロインなんかじゃない。 罪を犯して それを裁かれる過程の中で今ここに居るだけ。 誰かに優しくしてもらいたいなんて甚だしい 決して考えてはいけない"逃げ"でしかない。 自分はもっともっと反省しなければいけない 拘留十六日目 この日…

名前が数字に変わった日4

時間の流れが恐ろしく遅く感じる。 外に居た頃の一日がまるで一週間に変わったような感覚だった。 毎日貸し出される三冊の官本も まるで面白さを感じなくなり、それでも時間を少しでも早く進めたくて懸命に文字を目で追うが気付くと無意識のまま数ページ読み…

名前が数字に変わった日3

逮捕から一日経ち、拘留が決まり さらに十日経ち、拘留延長が決まった。 最大拘留期間の二十日間だ。 その節目節目の度に "もしかしたら"なんて情けない期待をしては 当然の結果に肩を落とした。 日本の警察だって そんなに甘く出来てる訳じゃない。 自分自…

名前が数字に変わった日2

逮捕されてる間 ずっと家族の事ばかり考えてた その時の気持ちを思い出しながら 色んな事を書こうとした筈なのに 一行書いては独房の記憶が鮮明に蘇り とてつもない濃度の吐気が襲ってくる 今まで生きてきた中で 大なり小なり悪いことも沢山してきた 数え切…

名前が数字に変わった日1

私はとあるキッカケで逮捕され 約1ヶ月ほど留置所の中で過ごした。 それまで当たり前だった自由を こんなにも呆気なく失い、只狭く殺風景な独房で 自らの浅はかさを後悔する日々だった。 日を重ねる毎に外への憧れが強くなり 比例して外へ出る事への恐怖が…